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大阪高等裁判所 昭和46年(ラ)70号 決定 1973年3月20日

抗告人 吉野薫(仮名)

主文

原審判を取り消す。

母吉野ミヨ子男吉野薫(昭和二〇年一一月一八日生)につき、大阪市東成区○○△丁目△番△の△△号を本籍地として、就籍することを許可する。

理由

抗告人は、主文同旨の決定を求めた。抗告の理由は、別紙(一)のとおりであり、本件申立ての理由は、別紙(二)のとおりである。

記録によると、抗告人の申立理由にいう事実をすべて認めることができる。更に記録中の戸籍謄本によると、抗告人は、昭和二二年五月二八日縁組承諾者である母ミヨ子によつて、台湾台中県○○区○○△△号に本籍を有する甲大明と養子縁組をし、同日その届出が大阪市旭区長に受理され、同年六月二七日当時の抗告人の本籍地である大阪市東成区役所に送付されて、抗告人の戸籍に記載されたことが認められる。

抗告人が除籍されたのは、昭和二七年四月一九日付法務府民事局長通達(法務府民事甲第四三八号)中、「もと内地人であつた者でも、平和条約の発効前に朝鮮人または台湾人との婚姻、養子縁組等の身分行為により内地の戸籍から除籍せらるべき事由の生じたものは、朝鮮人または台湾人であつて、条約発効とともに日本の国籍を喪失する。」とある部分によるものと思われる。そして、右通達の根拠は、共通法三条一項にある。

しかしながら、共通法三条一項は、本件抗告人には適用されないと解するのが相当である。すなわち、同条項は、「一ノ地域ノ法令ニ依リ其ノ地域ノ家ニ入ル者ハ他ノ地域ノ家ヲ去ル」というのであつて、右に「家ニ入ル」、「家ヲ去ル」という概念は、当時施行の民法の家の制度を前提としたものである。これを単に表現上の便法とみるのは妥当でない。そうすると、昭和二二年五月三日日本国憲法及びいわゆる民法応急措置法の施行により家の制度が廃止され、民法中家に関する規定は適用しないこととされたのであるから、同日以降は、共通法の前記条項は、その前提を失ない、実質上失効したものと解すべきである。したがつて、同日以後である昭和二二年五月二八日に甲大明と養子縁組した抗告人には、共通法三条一項の適用はなく、抗告人は、前記通達にいう「内地の戸籍から除籍せらるべき事由の生じたもの」に当らないというべきである。そして、右縁組当時施行の国籍法によれば、日本人が外国人の養子になつても日本国籍を失なうことはなかつた。

そうすると、抗告人は、右養子縁組後も日本人であり、かつ国内法上台湾人としての法的地位をもつ根拠も有しなかつたのであるから、平和条約の発効によつて台湾人または中国人となる法的根拠もなく、依然として日本国籍を有するものと解するのが相当である。したがつて、前記認定事実によれば、本件就籍の申立ては相当であるから、これを認容すべきであり、本件抗告は理由がある。

よつて、原審判を取り消して、抗告人の就籍を許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 入江教夫 高橋欣一)

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